月の残業80時間はきつい……。違法な労働の可能性と残業代
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岩手県が公表している「働き方改革及びワーク・ライフ・バランスに関する調査」では、岩手県の労働者は全国的にみても年間総労働時間が長いことが指摘されています。
労働者のなかには「長時間労働が常態化しており、月80時間を超える残業は当たり前になっている」という状況の方もおられるでしょう。一般的にみて、月80時間を超える残業は、非常に多い数字であり、健康被害が生じる危険性の高い「過労死ライン」に匹敵する数字であるといえます。
本コラムでは、残業時間の上限規制と違法な長時間労働への対処法について、ベリーベスト法律事務所 盛岡オフィスの弁護士が解説します。
1、残業80時間は違法ではないのか
まず、月の残業時間が80時間にもなっている状態が法律的にどのように扱われるかについて、解説します。
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(1)残業80時間は原則として違法
労働基準法では、労働時間の原則は、1日8時間、1週40時間とされており、これを「法定労働時間」といいます。
会社が労働者に対して、法定労働時間を超えて時間外労働を命じるためには、労働者の代表者と使用者の間で36協定を締結して、労働基準監督署に届け出る必要があります。
さらに、36協定によって時間外労働を命じる際にも、上限なく時間外労働を行わせることができるわけではありません。月45時間、年360時間という上限規制が設けられています(労働基準法36条4項)。そのため、月の残業時間が80時間という場合には、労働基準法に違反する状態であるといえるのです。 -
(2)例外的に違法とならないケース
上記のとおり、月の残業時間が80時間という場合には、原則として労働基準法に違反する違法な残業にあたります。
しかし、1年のうちに6か月以内であれば、月の残業時間が80時間であっても例外的に違法にならないケースがあるのです。
具体的な内容については後述しますが、労働者の代表者と使用者との間で「特別条項付きの36協定」を締結して、労働基準監督署に届け出ることによって、時間外労働の上限規制を超える残業を命じたとしても違法とならないケースがあります。
しかし、月の残業時間が80時間という場合には、勤務日数が22日とした場合、1日あたり約3時間40分の残業を命じられていることになります。
月に数日程度であれば疲労の蓄積も少ないかもしれませんが、毎日のようにこのような長時間労働が続くと肉体的にも精神的にも疲弊してしまいます。そのため、例外的に違法にならないとしても、非常にきつい状態であるとはいえるでしょう。
2、残業時間の上限と例外ケース
残業時間の上限と、その例外について解説します。
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(1)残業時間の上限規制
残業時間の上限規制としては、これまでは、厚生労働大臣の告示(労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延⻑の限度等に関する基準)によって、1週間で15時間、2週間で27時間、4週間で43時間、1か月で45時間、2か月で81時間、3か月で120時間、1年間で360時間という基準が設けられていました。
しかし、告示による規制では、罰則による強制力がなかったため、実効性に乏しいという指摘がありました。そのため、働き方改革の一環として労働基準法が改正され、1か月45時間、1年360時間という時間外労働の上限が法律に罰則付きで明記されることになったのです。改正労働基準法については、大企業では平成31年(令和元年)4月から、中小企業では令和2年4月から適用されています。 -
(2)例外的に上限規制を免れるケース
残業時間の上限規制には、例外があり、特別条項付きの36協定を締結することによって、残業時間の上限規制を超えて働かせることが可能です。
これまでは、残業時間の上限規制があるものの、特別条項付きの36協定を締結することによって、上限なく時間外労働を命じることができるため、長時間労働の常態化が問題視されてきました。
今回の労働基準法改正では、特別条項付きの36協定を締結する場合であっても守らなければならない最低限の基準が設けられるようになったのです。
具体的な内容としては、以下のような条件に違反した場合に、使用者に対して6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。- 時間外労働が年720時間以内
- 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
- 時間外労働と休日労働の合計について、2か月平均、3か月平均、4か月平均、5か月平均、6か月平均がすべて1月あたり80時間以内
- 時間外労働が45時間を超えることができるのは、年6か月が限度
3、長時間残業は過労死ラインにも抵触するかも
月平均残業時間が80時間という長時間労働をしている場合には、過労死ラインに抵触する可能性があります。
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(1)過労死ラインとは
過労死ラインとは、労働者が脳や心臓の病気を発症した場合の労災保険の認定基準をいいます。
現在の過労死ラインでは、発症前1か月間におおむね100時間または発症前2~6か月平均80時間を超える時間外および休日労働が認められる場合には、業務と発症との関連性が強いと評価されるようになっています。 -
(2)残業時間が80時間を超えると過労死ラインに抵触
月の残業時間が80時間を超える状態は、労働基準法上の残業時間の上限規制に抵触するだけでなく、過労死ラインに抵触する可能性があります。
長時間労働による労働者の心身への負担は、多くの研究によって裏付けられています。
過労死ラインに抵触する長時間労働を強いられている場合には、脳や心臓疾患のリスクが非常に高くなると考えられているのです。
長時間労働が常態化してくると、自分でも気づかないうちに疲れが蓄積して、突然に過労死してしまうということもあります。ご自身の体調管理には、十分に気を配るようにしてください。
4、未払い残業代はある? 退職するために準備することは?
長時間労働が常態化している職場で働いている労働者の方は、正規の残業代が支払われていな可能性があります。
以下では、長時間労働や未払い残業代が発生している場合に、労働者がとれる対策を解説します。
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(1)脳・心臓疾患を発症する前に退職
月の残業時間が80時間を超えてくると、過労死ラインに抵触する可能性のある過重労働といえます。そのまま仕事を続けていると疲労が蓄積して、脳や心臓の疾患を引き起こす可能性が高まります。また、蓄積した疲労によって精神的ストレスを抱え、自殺に至ってしまうこともあるでしょう。
このような最悪のケースを避けるためには、会社に対して、残業時間を減らすような措置を求めることが必要になります。
しかし、労働者から会社に対してそのようなことを提案することは、立場上難しいという場合もあるでしょう。
そのような場合には、退職という選択肢も検討してください。
過労によって倒れてしまっては、転職や再就職も難しくなるために、健康なうちに早めに行動に移すことをおすすめします。 -
(2)退職前に残業代請求の準備を
長時間労働が常態化する職場では、適切な労働時間管理ができておらず、未払いの残業代が存在していることがあります。
残業代は、残業時間に比例して増えていきます。月80時間もの長時間残業をしている労働者の方であれば、会社に対して請求することができる残業代も高額になる可能性が高いといえるでしょう。
ただし、残業代を請求するためには、「残業があった」という事実や残業時間を示す証拠を、きちんと収集しておく必要があります。
未払い残業代を請求するために必要な証拠の例は、下記のとおりになります。- 労働契約書、労働条件通知書
- 就業規則
- タイムカード、業務日報
- メールの送受信履歴
- 日記
- 給与明細、源泉徴収票
退職してからでは、上記の証拠を取得することが難しくなったり、会社側に改ざんされたりするおそれがあります。
退職前から、残業代を請求するために、しっかりと準備しておくことが重要です。 -
(3)弁護士に相談
長時間労働によって心身ともに疲弊した労働者には、未払い残業代を請求するために会社と交渉することが困難な場合もあるでしょう。交渉によってさらに精神的ストレスを抱えてしまい、ストレスを原因とした病気が発症・悪化するおそれもあります。
残業代請求を予定している場合には、まずは、弁護士にまでご相談ください。
弁護士であれば、残業代請求に必要な証拠の収集について、アドバイスをすることが可能です。また、残業代の複雑な計算についても、弁護士が行うことができます。さらに、会社との交渉についても、弁護士が代行することができるのです。
弁護士のサポート受けることによって、労働者の方の精神的負担も、かなり軽減されることでしょう。
残業代の請求には、時効があります。できるだけ早めに、弁護士にまでご連絡ください。
5、まとめ
残業時間が月80時間を超えている状態は、決して正常な状態とはいえません。
退職ということも選択肢にいれて、今後の対応について、まずは弁護士にご相談ください。
岩手県内で、会社に対する残業代請求などを検討されている労働者の方は、ベリーベスト法律事務所 盛岡オフィスにご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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