「派遣は有給を取得できない」と会社から言われたときの対処法

2024年08月14日
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「派遣は有給を取得できない」と会社から言われたときの対処法

2022年度に岩手県内の総合労働相談コーナーに寄せられた労働に関する相談は3831件でした。労働問題のひとつに、年次有給休暇(有休)を希望通りに取得できないというトラブルがあります。

特に、派遣労働者(派遣社員)は有休を取得できないと言われるケースがあるようですが、派遣労働者にも労働基準法が適用されるため、これは誤りです。もし不当に有給取得を拒否されたら、速やかに弁護士へご相談ください。

本記事では、派遣労働者が取得できる有給休暇のルールや、派遣労働者は有給休暇を取得できないと言われた場合の対処法などを、ベリーベスト法律事務所 盛岡オフィスの弁護士が解説します。

出典:「令和4年度の個別労働紛争解決制度施行状況について」(岩手労働局)


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1、派遣労働者でも有給休暇は取得できる

派遣労働者は、派遣元事業主(派遣会社)に雇用され、派遣先企業の指揮命令下で働きます。

使用者に雇用されている労働者である点では、派遣労働者も正社員などと変わりません。したがって派遣労働者でも、労働基準法に基づいて有給休暇を取得できます

  1. (1)派遣労働者が有給休暇を取得するための条件

    有給休暇は、以下のいずれかの要件を満たす労働者に対して付与されます(労働基準法第39条第1項、第2項)。派遣労働者についても同様です。

    ① 雇入れの日から起算して6か月継続勤務した労働者
    雇入れの日から起算して6か月間における全労働日の8割以上出勤したこと

    ② 雇入れの日から起算して1年6か月以上継続勤務した労働者
    継続勤務年数1年ごとに、直前1年間における全労働日の8割以上出勤したこと


    上記のとおり、有給休暇が付与される時期は、初回が雇入れの6か月後、その後は1年ごと(1年6か月後、2年6か月後……)です。

  2. (2)派遣労働者が取得できる有給休暇の日数

    有給休暇の付与日数は、所定労働日数・所定労働時間と継続勤務期間によって決まります。

    以下のいずれかに該当する労働者(フルタイム労働者)には、継続勤務期間に応じて以下の日数の有給休暇が付与されます(労働基準法第39条第1項、第2項)。

    フルタイム労働者の条件
    • ① 1週間の所定労働日数が5日以上
    • ② 1年間の所定労働日数が217日以上
    • ③ 1週間の所定労働時間が30時間以上

    ※ひとつでも満たせばフルタイム労働者

    <フルタイム労働者の有給休暇の日数>
    継続勤務期間 付与される有給休暇の日数
    6か月 10日
    1年6か月 11日
    2年6か月 12日
    3年6か月 14日
    4年6か月 16日
    5年6か月 18日
    6年6か月以上 20日

    フルタイム労働者ではない労働者に対しては、継続勤務期間と所定労働日数に応じて以下の日数の有給休暇が付与されます(労働基準法第39条第3項)。

    1週間の所定労働日数 4日 3日 2日 1日
    1年間の所定労働日数 169日以上216日以下 121日以上168日以下 73日以上120日以下 48日以上72日以下
    継続勤務期間 6か月 7日 5日 3日 1日
    1年6か月 8日 6日 4日 2日
    2年6か月 9日 6日 4日 2日
    3年6か月 10日 8日 5日 2日
    4年6か月 12日 9日 6日 3日
    5年6か月 13日 10日 6日 3日
    6年6か月以上 15日 11日 7日 3日

    ※1週間の所定労働日数と1年間の所定労働日数のうち、有給休暇の日数が多くなる方を用いて判定します。

  3. (3)派遣労働者の有給休暇の取得期限

    有給休暇は、2年間請求しなければ時効によって消滅します(労働基準法第115条)。

    たとえば、2023年4月1日に雇用された派遣労働者の場合、初回の有給休暇が付与されるのは2023年10月1日です(雇入れ後6か月間における全労働日の8割以上出勤した場合)。

    2023年10月1日に付与された有給休暇は、2025年9月30日までに取得しなければなりません(なお、初日の算入については民法第140条参照)。2025年10月1日が到来すると、有給休暇は時効によって消滅してしまいます。

    会社の判断により、付与日から2年間を経過した有給休暇の取得を認めることは可能です。しかし一般的には、2年経過後の有給休暇の取得を認める会社は少ないと考えられます。

    労働基準法のルールを確認して、付与された有給休暇は2年が経過する前に確実に取得しましょう。

2、派遣労働者が有給休暇を申請する際の流れ

派遣労働者が有給休暇を申請する際の流れは、以下のとおりです。申請先は雇用主である派遣元事業主ですが、派遣先との調整も必要になります。



  1. (1)派遣先との間で事前調整をする

    派遣労働者が有給休暇を申請する際には、あらかじめ派遣先との間で事前調整をすると、スムーズに有給休暇を取得できるケースが多いです。

    派遣先における直属の上司などに有給休暇の希望を伝えて、支障がないかどうか確認しておきましょう。

  2. (2)派遣元事業主に有給休暇を申請する

    有給休暇の申請は、雇用主である派遣元事業主に対して行います。派遣先とは事前調整済みの場合でも、申請先は派遣元事業主となる点にご注意ください。

  3. (3)派遣元事業主が派遣先との間で調整を行う

    派遣労働者から有給休暇の申請を受けた派遣元事業主は、その旨を派遣先に伝えて、業務上の支障がないかどうかを確認します。

    繁忙期等のために支障がある場合は、時季変更権(後述)を行使するように派遣先から派遣事業主へ要請されることもあります。

  4. (4)有給休暇の具体的な日程が決まる

    派遣元事業主と派遣先の間での調整を経て、有給休暇の具体的な日程が決まります。
    派遣労働者に対しては、雇用主である派遣元事業主が伝えるのが本来の形ですが、派遣先から伝えられるケースもあります。

3、派遣先が変わった場合、有給休暇はなくなるのか?

派遣労働者は、派遣元事業主と派遣先の間の契約終了などに伴い、実際に働く派遣先が変わることがあります。派遣先が変わっても有給休暇は引き継がれますが、次の派遣先がなかなか決まらないと、次回付与されるはずの有給休暇が付与されないことがあるので注意が必要です。

  1. (1)派遣先が変わっても、有給休暇は引き継がれる

    派遣労働者を雇用しているのは、あくまでも派遣元事業主であって、派遣先ではありません。派遣先が変わったとしても、派遣労働者と派遣元事業主の間の雇用契約は継続しています。

    したがって、雇用契約に基づいて付与される有給休暇に対して、派遣先の変更が影響することはありません。派遣先が変わったとしても、すでに付与された有給休暇は引き継がれるので、引き続き申請が可能です。

  2. (2)派遣先がなかなか決まらないと、次の有給休暇が取得できないことがある

    ただし、次の派遣先がなかなか決まらない場合は、有給休暇の付与条件である「全労働日の8割以上出勤」を満たさなくなることがあります。

    この場合、次回付与されるはずだった有給休暇を取得できなくなることがある点に注意が必要です。有給休暇が付与されなかった場合、次に有給休暇が付与され得るのは1年後となります。

    なお、派遣先がなかなか決まらなかったとしても、前述のとおり、すでに付与された有給休暇がはく奪されることはありません(時効によって消滅する場合を除きます)。

4、派遣労働者は有給休暇を取得できないと言われたらどうする?

労働基準法のルールを誤って理解しているために、派遣労働者に有給休暇を付与しようとしない会社があるようです。このような取り扱いは労働基準法違反に当たります。もし会社が不当に有給休暇の取得を拒否した場合は、弁護士を通じて反論しましょう

なお、労働者が請求した時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合には、使用者は別の機会に有給休暇を与えることができます(労働基準法第39条第5項)。これを「時季変更権」といいます。

派遣元事業主は時季変更権を理由に、派遣労働者に有給休暇を取得させないようにしてくるかもしれません。

しかし、時季変更権を行使できるのは、繁忙期など事業の正常な運営を妨げる場合に限定されています。また、あくまでも有給休暇の時季を変更できるだけであって、有給休暇の取得を一切拒否することは認められません。

会社によっては、時季変更権を不適切な形で行使して、かたくなに有給休暇を取得させないようにするケースがあります。このような不当な取り扱いを受けた場合にも、弁護士へご相談ください。

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5、まとめ

派遣労働者でも、労働基準法に基づいて有給休暇を取得することができます。また、派遣先が変わった場合でも、すでに付与されている有給休暇は引き続き取得可能です。

派遣労働者が有給休暇を申請する場合、申請先は派遣元事業主となります。派遣元事業主が定める就業規則などに従って有給休暇を申請しましょう。もし不当に有給休暇の取得を拒否されるなどのトラブルが生じたら、弁護士への相談をおすすめします。

ベリーベスト法律事務所 盛岡オフィスでは、労働基準法や会社とのトラブルに関する労働者の相談を随時受け付けております。有給休暇について会社とトラブルになった場合は、まずはお気軽にベリーベスト法律事務所にご相談ください。

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