有給休暇の繰り越し上限日数は? 計算方法や注意点とは
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従業者が有給休暇を付与されてから1年間で消化できなかった場合、有給を翌年に繰り越すことができます。
ただし、繰り越しができる有給休暇については上限があり、保有日数についても限界があります。
この記事は、人事労務を担当されている方のために、有給休暇の繰り越しの上限や最大保有数、繰り越す場合の計算方法などについて、ベリーベスト法律事務所 盛岡オフィスの弁護士が解説していきます。
1、有給休暇の繰り越し上限は何日?
従業員の有給休暇は翌年まで繰り越すことができます。繰り越しの上限は20日間です。
この20日間とは、6年6か月以上勤務すると従業員が取得できる有給休暇の最大付与数です。20日間を繰り越し、さらにその年に付与された20日間の有給休暇を合算すると、1年で最大40日間の有給休暇を取得することができます。
そもそも有給休暇(「年次有給休暇」「年休」とも呼ばれる)とは、一定の期間継続して会社に勤務した従業員に対して、心身の疲労を回復しゆとりある生活を保障するために付与される、賃金が減額されない休暇のことを指します。
したがって、会社の人事・労務を担当する場合には、個々の従業員がどのくらい有給休暇を保有しているのかという点を正確に把握しておくことが非常に重要となります。
2、そもそも有給休暇が付与される条件とは
次に、有給休暇が付与される条件について解説していきます。
会社は、従業員を「雇い入れた日から6か月間継続勤務」し、その6か月間の「全労働日の8割以上を出勤」した場合には、原則として「10日」の有給休暇を与えなければなりません(労働基準法第39条1項)。
勤続年数ごとに従業員に付与される有給休暇の日数については、以下の表のとおりです。
継続勤務年数 | 6か月 | 1年6か月 | 2年6か月 | 3年6か月 | 4年6か月 | 5年6か月 | 6年6か月以上 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
付与日数 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 |
付与される有給休暇の日数は、勤続年数が長くなるのに応じて増えます。6年6か月以上勤務した場合、付与日数は最高「20日間」となり、それ以降はずっと20日間の有給休暇が付与されていくことになります。
3、有給休暇を繰り越す場合の計算方法
それでは、有給休暇を繰り越す場合の計算方法を具体的なケースにあてはめて考えていきましょう。
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(1)勤続10年のAさんが前年「10日分」を繰り越すケース
ケース1
勤続年数が10年を超える従業員Aさんは、2022年度に付与された20日間の有給休暇のうち10日間については取得して休んだ。この場合2023年度の有給保有日数は何日か。
この場合、2022年に消化しなかった10日分の有給休暇は翌2023年に繰り越されることになります。
そのうえで、6年6か月以上勤続しているAさんは、同2023年度に新たに20日間の有給休暇が新規に付与されます。
したがって、Aさんの有給休暇の保有日数の合計は「30日」(=前年の繰り越し分10日+新規付与日数20日)となります。 -
(2)Aさんが2023年度に「15日」の有給休暇を消化した場合
ケース2
2023年度にさまざまなライフイベントが重なったことで、Aさんは合計「15日」の有給休暇を取得した。前年の有給休暇が繰り越されている場合、繰り越された有給休暇と新規に付与された有給休暇はどちらが先に消化されていくか。
新しく付与された有給休暇から先に消化してしまうと、今年付与された有給が5日(=新規付与20日-15日)に減ってしまい、2023年度の繰り越し分10日は2024年度には繰り越すことができず消滅してしまいます。これでは従業員Aさんにとって不利益が大きいことになってしまいます。
民法のルールにのっとればどちらから先に消化するかについては会社が指定することができますが(民法第488条1項)、従業員が不利益を被らないようにするためにも、時効が近い日数から消化されるのが一般的です。
したがって、前年の10日分の有給が消化されたうえで新規付与分20日から5日分が消化されることになります。この結果、Aさんは2023年度内に消化できなった15日分の有給を2024年度に繰り越すことができるのです。 -
(3)Aさんが2023年に「6日」の有給を消化した場合
ケース3
Aさんが、2023年度に「6日」しか有給休暇を取得しなかった場合、残りの有給は2024年度に繰り越せるか。
2022年度の繰り越し分「10日」を、2023年に6日消化した場合、4日の繰り越し分が残ってしまうことになります。
Aさんは24日分(=繰り越し分残4日+新規付与分20日)の有給休暇を保有していますが、2022年度の有給休暇は2024年度まで繰り越すことができません。
したがって、4日分の有給休暇は消滅してしまい、2024年度に繰り越されるのは20日分の有給休暇のみとなります。
4、有給休暇の繰り越しに関する注意点
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(1)有給休暇の時効は2年
有給休暇の請求権は労働基準法上の権利ですが、同法の規定による請求権(賃金請求権は除く)については行使することができる時から「2年間」行使しない場合には時効によって消滅することになります(労働基準法第115条)。
したがって、有給休暇の請求権の消滅時効は「2年」であり、前年度に取得されなかった有給休暇は翌年度中にしか消化することができません。
また、有給休暇は、労働者が希望する日時(時季)のとおり、原則として与えることとされています。したがって、労働者が具体的な月日を指定した場合には、「時季変更権」による場合を除き、その日に有給休暇を与える必要があります。
この「時季変更権」とは、事業の正常な運営を妨げる場合(同一期間に多数の労働者が休暇を希望したため、その全員に休暇を付与し難い場合など)には、他の時季に有給休暇の時季を変更することができるという会社の権利です。 -
(2)パートタイム労働者であっても有給休暇は付与される
パートタイム労働者であっても有給休暇は付与されます。
ただし、所定労働日数が少ない従業員については、所定労働日数に応じて有給休暇が比例付与されることになります。
「所定労働時間が週30日未満」で、かつ、「所定労働日数が4日以下」または年間の所定労働日数が216日以下のパートタイム労働者については、以下の表のとおり有給休暇が比例付与されます。所定労働日数 1年間の所定労働日数 勤続年数 6か月 1年6か月 2年6か月 3年6か月 4年6か月 5年6か月 6年6か月以上 4日 169日~216日 付与日数 7日 8日 9日 10日 12日 13日 15日 3日 121日~168日 5日 6日 6日 8日 9日 10日 11日 2日 73日~120日 3日 4日 4日 5日 6日 6日 7日 1日 48日~72日 1日 2日 2日 2日 3日 3日 3日 -
(3)年5日の有給休暇を取得させる義務
2019年4月から、会社には、取得時季を指定して従業員に有給休暇5日間を取得させる義務が課されています。
具体的には、年に10日以上の有給休暇を付与する従業員に対して、基準日から1年以内に5日以上の有給休暇を取得させるという内容です(労働基準法第39条7項)。
会社が上記義務を果たさなかった場合には、30万円以下の罰金として刑事罰が科されることになります(労働基準法第120条)。
このように会社には社員に有給休暇を取得させる義務がありますので、会社としては有給休暇を取得できるように促したり業務量を調整したりすることも大切です。
5、まとめ
有給休暇の繰り越しの上限は20日であり、前年度の未消化分のみを翌年に繰り越せるため、最大保有数は40日となります。
会社として有給休暇の取得を促したり、従業員が取得しやすい労働環境をとなるように社内体制を整備したりすることが大切であり、社内体制の整備や就業規則の改定などで迷った際には労働問題に知見のある弁護士に相談することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所 盛岡オフィスには、労務実績のある弁護士が在籍しております。顧問弁護士契約を含め、各社の事情に応じて最適なサービスをご提供いたします。会社の労務にお悩みの場合には、ぜひ一度ご相談ください。
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