給料差し押さえ通知が来た場合の会社の対応とは? 弁護士が解説
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2022年度に岩手県盛岡市に寄せられた消費生活相談は2574件で、そのうち多重債務やフリーローンに関する相談は277件でした。
従業員が借金の返済を滞納したなどの理由で、裁判所などから「給料差し押さえ通知」が届くことがあります。給料差し押さえ通知を受け取った会社は、従業員に対して支払う給料の一部を、債権者に対して直接支払わなければなりません。弁護士のアドバイスを受けながら、民事執行法のルールに従って給料の支払いを行いましょう。
本コラムでは、給料差し押さえ通知を受領した会社が取るべき対応について、ベリーベスト法律事務所 盛岡オフィスの弁護士が解説します。
1、給料差し押さえ通知とは
給料差し押さえ通知(債権差押命令、債権差押通知)とは、従業員の給料債権を差し押さえる旨の通知書です。
差し押さえ通知は、裁判所などから従業員の勤務先の会社に対して送付されます。
給料差し押さえ通知を受けた会社には何も非がありませんが、民事執行法のルールをふまえた対応が必要となる点に注意しましょう。
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(1)給料差し押さえ通知の内容
給料差し押さえ通知には、主に以下のような内容が記載されています。
- ① 債務者(従業員)の住所・氏名
- ② 強制執行の対象となっている債権(従業員が滞納しているもの)
- ③ 差し押さえる債権(給料債権)の内容
給料差し押さえが行われるのは、従業員が何らかの債務を履行しないために、債権者が裁判所に強制執行が申し立てた場合です。
この場合、裁判所は勤務先の会社に対して債権差押命令を送達します。
また、従業員が税金などの公租公課を滞納した場合には、税務署などが国税滞納処分として、給料債権を差し押さえることもあります。 -
(2)給料差し押さえに関する用語|債権者・債務者・第三債務者
給料債権の差し押さえに関しては、債権者・債務者・第三債務者という用語が用いられます。
それぞれの用語の意味は、以下の通りです。① 債権者
強制執行(または国税滞納処分)による回収の対象となっている債権の債権者です。
たとえば、従業員が返済を滞納している借金を回収するために給料債権が差し押さえられた場合、借金の債権者(金融機関など)が「債権者」に当たります。
② 債務者
強制執行(または国税滞納処分)による回収の対象となっている債権の履行を怠っている債務者です。
給料債権が差し押さえられた場合は、従業員が「債務者」に当たります。
③ 第三債務者
強制執行(または国税滞納処分)によって差し押さえられた債権の債務者です。
給料債権が差し押さえられた場合は、その給料を従業員に支払う会社が「第三債務者」に当たります。 -
(3)給料差し押さえ通知の効果
給料債権が差し押さえられると、第三債務者である会社は、債務者である従業員に対して差し押さえられた給料を支払うことが禁止されます(民事執行法第145条第1項)。
また、第三債務者(会社)に対して差押命令が送達された日から4週間(ただし、養育費や婚姻費用などの回収を目的とする場合は1週間)が経過すると、債権者は給料債権を直接取り立てることができます(同法第155条第1項、第2項)。
この場合、会社は債権者に対して、差し押さえられた給料を直接支払わなければなりません。
ただし、給料債権全額の差し押さえは認められておらず、一定の限度でのみ差し押さえが認められます。
2、給料差し押さえ通知が届いた場合の対応
以下では、裁判所から給料について債権差押命令の送達を受けた場合に会社が行う必要のある対応を解説します。
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(1)債権者と従業員に給料を分けて支払う
給料について債権差押命令の送達を受けた会社は、差し押さえられた給料については債権者に、残りの給料については従業員に分けて支払う必要があります。
民事執行法第152条により、給料債権の差し押さえについては、以下の金額が上限とされています。① 養育費や婚姻費用などの回収を目的とする場合
以下のいずれか多い金額
(a)手取り額の2分の1
(b)手取り額のうち33万円を超える部分
② ①以外の場合
以下のいずれか多い金額
(a)手取り額の4分の1
(b)手取り額のうち33万円を超える部分
※手取り額=基本給+諸手当-所得税-住民税-社会保険料
ただし、通勤手当は手取り額に含めない。
上記の要領で計算した差押可能金額(上限額)を、債権差押命令の「債権差押目録」に記載された金額と比較しましょう。
債権者に対して支払う給料の金額は、そのうち小さい方の金額となります。
正確に計算を行い、債権者と従業員の双方に対して、正しい金額の給料を支払ってください。 -
(2)執行裁判所に対して陳述書を提出する
執行裁判所は給料債権を差し押さえる際、第三債務者である会社に対して、以下の事項について陳述すべき旨を催告します(民事執行法第147条第1項、民事執行規則第135条)。
- ① 給料債権の存否、種類および額
- ② 弁済の意思の有無、弁済する範囲または弁済しない理由
- ③ 給料債権について、差押債権者に優先する権利の有無・内容等
- ④ 給料債権に対する、他の債権者の差し押さえ・仮差し押さえの執行の有無・内容等
- ⑤ 当該債権に対する滞納処分による差し押さえの有無・内容等
会社は裁判所から送られてくる陳述書に、必要事項を記入して返送しなければなりません。
陳述書の提出を怠ると、会社は債権者などに対して損害賠償責任を負う可能性がある点に注意してください(民事執行法第147条第2項)。
3、差し押さえられた給料を債権者に支払う際の対応
差押債権者がひとりの場合は、前述の方法によって債権者に支払うべき給料額を計算して、その金額を差押債権者に支払えば足ります。
これに対して、複数の差し押さえが競合して、その合計額が差押可能金額を超えた場合には、差押可能金額に相当する給料を供託しなければなりません(民事執行法第156条第3項)。
供託先は、給料債務の履行地(会社の本店所在地など)の供託所です。
また、給料の供託を行った場合は、その事情を執行裁判所に届け出なければならないのです(同条第4項)。
4、給料差し押さえ通知が来た際の注意点
以下では、執行裁判所から給料について債権差押命令が送達された場合の注意点を解説します。
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(1)従業員が完済を自己申告してきても、給料を全額支払うのはNG
強制執行による回収の対象となっている債務について従業員が完済したことを自己申告してきても、差し押さえが解除されない限りは、給料の一部は引き続き債権者に支払う必要があります。
給料債権の差し押さえは、債権者から取立完了届の提出を受けた執行裁判所が、決定により解除して第三債務者である会社に通知します。
裁判所からの通知があるまでは、従業員の言い分にかかわらず、引き続き債権者と従業員に給料を分けて支払いましょう。 -
(2)給料差し押さえがいつまで続くのかを確認すべき
給料債権の差し押さえは、強制執行による回収の対象である債務が完済されるまで続きます。
債権者に対して支払った給料は、債務の弁済に充当されます。
そのため、残債額と毎月の差押可能金額を基に計算すれば、いつごろまで給料債権の差し押さえが続くのかが分かります。
給料支払いの事務処理を計画的に行うため、給料債権の差し押さえがいつまで続くのかをあらかじめ確認しておきましょう。 -
(3)従業員に対する懲戒処分は控えるべき
会社の外で従業員が債務を滞納したとしても、それだけで会社が何らかの損害を被るわけではないため、懲戒処分の理由としては弱いと言わざるを得ません。
したがって、給料債権の差し押さえを理由に、従業員に対して懲戒処分を行うことは控えるべきです。
そもそも懲戒処分とは、就業規則上の懲戒事由に該当しなければ行うことができないものです。
また、従業員の行為の性質や態様などに照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない懲戒処分は無効となります(労働契約法第15条)。
給料債権の差し押さえを理由とする懲戒処分は、違法・無効と判断される可能性が非常に高いと認識しておいてください。
5、まとめ
給料について裁判所から債権差押命令が届いたら、給料を債権者と従業員に分けて支払う必要があります。
民事執行法に従った計算や対応などが求められますが、対応を間違えるとトラブルの原因にもなるため、弁護士のサポートを受けるのが安心です。
ベリーベスト法律事務所では、給料債権の差し押さえに関する企業のご相談を随時受け付けております。
突然裁判所から債権差押命令が届いたことで、どう対応すべきか不安を感じている方も、慌てる必要はありません。弁護士にご相談いただければ、民事執行法に沿った適切な対応についてアドバイスいたします。
裁判所から債権差押命令が届いて戸惑っている、または給料の支払い事務について不安な点がある企業経営者の方や担当者の方は、まずはベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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