改正旅館業法の要点とは? ホテルや旅館業者が抑えるべきポイント

2024年10月16日
  • 一般企業法務
  • 改正旅館業法
改正旅館業法の要点とは? ホテルや旅館業者が抑えるべきポイント

全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会のWEB調査(2022年)によると、回答したホテルや旅館のうち46.4%が、いわゆる迷惑客等への対応に苦慮したことがあると回答しました。

2023年12月13日より施行された、改正旅館業法では、迷惑客からの嫌がらせや執拗なクレームなど、いわゆる“カスタマーハラスメント”に関する宿泊拒否事由の追加や、顧客に対する差別防止の徹底などに関する変更が行われています。

本記事では改正旅館業法について、変更点や事業者における対応のポイントなどをベリーベスト法律事務所 盛岡オフィスの弁護士が解説します。

出典:「旅館業関係の現状 改正旅館業法について」(厚生労働省)

1、2023年12月施行|改正旅館業法による主な変更点

2023年12月13日より施行された改正旅館業法では、以下の4点に関して変更が行われました。本記事では①と③を中心に解説します。

  • ① カスタマーハラスメントに関する宿泊拒否事由の追加
  • ② 感染防止対策の充実
  • ③ 差別防止のさらなる徹底等
  • ④ 事業譲渡に係る手続きの整備

2、カスタマーハラスメントに関する宿泊拒否事由の追加

近年、店舗やホテルなどに対する顧客の「カスタマーハラスメント(カスハラ)」が社会問題となっています。この状況を受けて、改正旅館業法ではカスハラに対する宿泊拒否の項目が足されました。

  1. (1)カスタマーハラスメントとは

    「カスタマーハラスメント」とは、顧客が店舗やホテルなどに対して理不尽な要求や言動をすることです。

    たとえば、従業員に対して土下座を強要する、店舗側に落ち度がないにもかかわらず、おわびの無料サービスを強要するなどの行動はカスタマーハラスメントに当たります。

  2. (2)旅館(ホテル)が宿泊を拒否できるケース|カスハラの例も紹介

    旅館業を営む者は、宿泊しようとする者の宿泊を原則として拒んではならないとされています(旅館業法第5条第1項)。

    ただし、以下のいずれかの事由に該当する場合には、宿泊を拒否することが可能です(同項各号)。

    ① 特定感染症の患者等であるとき
    感染症の拡大防止の観点から、感染症法に基づく一類感染症・二類感染症・新型インフルエンザ等感染症・指定感染症・新感染症(=特定感染症)の患者等については宿泊を拒否できます。

    ② 賭博やその他の違法行為、または風紀を乱す行為をするおそれがあるとき
    宿泊施設の風紀を守る観点から、違法行為や風紀を乱す行為をするおそれがある者については宿泊を拒否できます。

    ③ 営業者に対してカスタマーハラスメント(=特定要求行為)を繰り返したとき
    改正旅館業法によって新たに追加された宿泊拒否事由です。

    ④ 宿泊施設に余裕がないとき、その他都道府県が条例で定める事由があるとき
    満室等の場合には宿泊を拒否できるほか、都道府県の条例によって宿泊拒否事由を追加することが認められています。


    カスタマーハラスメントに当たる「特定要求行為」に当たるのは、以下の(a)または(b)に該当する行為です。

    (a)宿泊料の減額、その他の実現が容易でない事項の要求
    ※社会的障壁の除去を求める場合を除く
    (例)
    • 宿泊料の不当な割引、不当な慰謝料、不当な部屋のグレードアップ、不当なレイトチェックアウト(規定より遅いチェックアウト)、不当なアーリーチェックイン(規定より早いチェックイン)、契約にない送迎などを求める
    • 上下左右の部屋に他の宿泊客を入れないように繰り返し求める
    • 特定の従業員による応対、または特定の従業員の出勤停止を繰り返し求める

    (b)粗野または乱暴な言動、その他の従業者の心身に負担を与える言動を交えた要求であって、接遇に通常以上の労力を要するもの
    ※不当な差別的取り扱いを行ったことに起因するもの、その他これに準ずる合理的な理由があるものを除く
    (例)
    • 土下座など、社会的相当性を欠く方法による謝罪を繰り返し求める
    • 長時間にわたり不当な要求を繰り返す
    • 叱責しながら不当な要求を繰り返す
  3. (3)カスハラを理由に宿泊を拒否できないケース

    顧客の要求や通常ではない言動が、すべてカスタマーハラスメント(=特定要求行為)に当たるわけではありません。

    たとえば、以下のような行為は特定要求行為に当たらないため、それを理由に宿泊を拒否することはできません。

    • 難聴であることを理由に、筆談でのコミュニケーションを求める
    • 車いす利用者が、ベッドへ移動する際の介助を求める
    • 障害者が不当な差別を受けたことについて、社会的に相当な方法による謝罪を求める
    • 障害による発作としてなされた通常ではない言動であって、本人や同行者に聞くなどしてその原因を把握できるもの
    • 営業者側の故意または過失による損害につき、相当な方法による補償を求める
    など

3、顧客に対する差別防止の徹底

改正旅館業法では、感染症患者や障害者などに対する不当な差別を防止するため、以下の義務および努力義務が新たに設けられました。



  1. (1)従業員研修の努力義務

    感染症患者や障害者などに対する不当な差別を防ぐには、旅館施設においてサービスを提供する従業員の正しい理解が必要不可欠です。

    改正旅館業法では、以下の2点を目的として、従業者に対して必要な研修の機会を与えることが営業者の努力義務とされました(旅館業法第3条の5第2項)。

    • 特定感染症のまん延防止に必要な対策を適切に講じること
    • 高齢者や障害者などの特に配慮を要する宿泊者に対して、その特性に応じたサービスを提供すること
  2. (2)宿泊拒否に関する適切な判断

    カスタマーハラスメントを含む一定の宿泊拒否事由は定められているものの、それが旅館側の裁量によって運用されてしまうと、顧客に対する不当な差別につながってしまうおそれがあります。

    改正旅館業法では、旅館業の公共性を踏まえながら、宿泊しようとする人の状況等に配慮して、みだりに宿泊を拒んではならない旨が明記されました(旅館業法第5条第2項)。

    また、宿泊を拒む場合には、宿泊拒否事由に該当するかどうかを客観的事実に基づいて判断しなければならない旨、および宿泊しようとする者の求めに応じて、その理由を丁寧に説明できるようにすべき旨が営業者に義務付けられました(同)。

  3. (3)宿泊拒否に関する理由の記録義務

    宿泊拒否の理由について、現場で判断して顧客に伝えるだけで記録を残さないと、後でその理由の当否を検証することができません。宿泊拒否の判断に至った経緯については、きちんと記録しておくべきです。

    特に感染症患者やカスタマーハラスメント(=特定要求行為)を理由とする宿泊拒否については、旅館側の裁量による部分が大きく差別につながりやすいため、理由を記録化する必要性が高いといえます

    そのため、改正旅館業法では当分の間、特定感染症の患者等であることまたは特定要求行為をしたことを理由に宿泊を拒否したときは、その理由等の記録が義務付けられました(改正法附則第3条第2項)。

4、改正旅館業法に関するその他の対応ポイント

改正旅館業法においては、上記以外にも以下の変更が行われました。

  • ② 感染防止対策の充実
  • ④ 事業譲渡に係る手続きの整備


感染防止対策に関しては、以下の各点について変更が行われた点にご留意ください。これらの変更点を反映して、感染症対応マニュアルなどのアップデートを行いましょう。

  • 特定感染症が国内で発生している期間中は、必要な限度で、まん延防止の対策への協力を宿泊客に求めることができる旨が新たに規定されました(旅館業法第4条の2)。
  • 宿泊拒否事由の一つであった「伝染性の疾病にかかっていると明らかに認められるとき」が、「特定感染症の患者等であるとき」に改められました(同法第5条第1項第1号)。
  • 宿泊者名簿の記載事項として「連絡先」が追加され、「職業」が削除されました(同法第6条)。


事業譲渡に係る手続きの整備に関する変更については、旅館業の事業譲渡に関与する予定があれば留意しておくべきです。

従来は事業譲渡によって旅館業の許可が承継されず、譲受人において新たに旅館業の許可を取得する必要がありました。

改正旅館業法により、事業譲渡の際に譲受人が都道府県知事(保健所を設置する市または特別区では市長または区長)の承認を受ければ、新たな許可を必要とせず営業者の地位を承継できるようになりました(同法第3条の2第1項)。

なお、事業承継に伴って営業者の地位を承継した者に対しては、当分の間、承継日から6か月以内に少なくとも1回の業務状況調査が実施されます(改正法附則第3条第1項)。

5、まとめ

改正旅館業法では、カスタマーハラスメント対策の充実化や宿泊客に対する差別防止の徹底などが図られました。未対応の旅館業者は、早急に改正旅館業法への対応を済ませましょう。

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  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています