難病は離婚原因になる? 話し合いができない場合に離婚する方法とは
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盛岡市が公表している統計資料によると、2021年度の盛岡市内での離婚件数は、587件でした。離婚でよくある原因は性格の不一致ですが、なかには配偶者の病気など、さまざまな事情があるでしょう。
配偶者が病気にかかり、それが難病であった場合には、長期的な看病が必要になります。長期の看護は一方の配偶者にとって、精神的・肉体的に大きな負担となるため、夫婦の中にも亀裂が生じてしまうことがあります。
しかし難病は離婚原因として認められるのか悩む方もおられるでしょう。また、難病で話し合いが難しい場合には、どのような方法で離婚をすればよいのでしょうか。今回は、難病が離婚原因になるのか、難病で話し合いができないときの離婚の方法などについて、ベリーベスト法律事務所 盛岡オフィスの弁護士が解説します。
目次
1、難病は離婚原因になるのか?
そもそも難病は離婚原因になるのでしょうか。
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(1)相手が離婚に同意してくれれば離婚は可能
夫または妻が難病にかかってしまうと、看病する側も肉体的・精神的に疲弊してしまいます。そのため、闘病生活が長期間におよぶと「もう一緒にいるのは限界」と感じて、離婚を決意することもあると思います。
このような場合、まずは相手との話し合いによる離婚を目指します。話し合いの結果、相手が離婚に応じてくれるようであれば、離婚原因が難病であったとしても、離婚は可能です。
相手と会話ができる状態であれば、まずはご自身の状況を伝えてみましょう。 -
(2)相手の同意がなければ難病という理由だけでは離婚は認められない
相手が離婚に同意してくれない場合には、裁判離婚をする必要があります。しかし、裁判離婚をするには、以下のような法定離婚事由が必要になります。
- 不貞行為
- 悪意の遺棄
- 3年以上の生死不明
- 回復の見込みのない強度の精神病
- その他婚姻を継続し難い重大な事由
法定離婚事由には、「強度の精神病」が挙げられていますが、難病は、直接的にはこの法定離婚事由には該当しません。
そのため、相手が難病というだけでは原則として離婚が認められることはありません。難病を理由に離婚をするには、離婚に至るまでの原因や看病の経過などを踏まえて、婚姻が回復し難いほど破綻していると認められる必要があります。
なお、令和6年5月に成立した民法の一部を改正する法律により、回復の見込みのない強度の精神病は、法定離婚事由から削除されました。そのため、同法の施行後(成立より2年以内に施行予定)は、「強度の精神病」に該当する場合であっても、それだけでは裁判上の離婚が認められるわけではないことに、ご注意ください。
2、認知症など話し合いができない場合に離婚したい場合は?
相手が認知症になってしまうと、認知症の程度によっては会話も難しい状態になることがあります。このような場合には、どのような方法で離婚をすればよいのでしょうか。
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(1)話し合いができないときは裁判離婚で進める
一般的な離婚のケースであれば、夫婦の話し合いである協議離婚、裁判所の調停手続きを利用する調停離婚、裁判所に離婚を判断してもらう裁判離婚という順で手続きを進めていきます。
しかし、相手が認知症になってしまうと、離婚の話し合いをするのは困難ですので、協議離婚および調停離婚の手続きをスキップして、すぐに裁判離婚の手続きを始めることも可能です。
ただし、認知症で意思能力のない相手と離婚するためには、離婚裁判を起こす前提として、成年後見人の選任が必要になります。成年後見人を選任するには、家庭裁判所への申立てが必要になり、手続き完了までには時間がかかりますので、早めに申立てを行うようにしましょう。
なお、裁判所に離婚を認めてもらうためには、法定離婚事由が必要になりますので、認知症が「回復の見込みのない強度の精神病」または「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するかどうかがポイントになります(前述のとおり、令和6年5月成立の民法の一部を改正する法律の施行後は、「回復の見込みのない強度の精神病」は法定離婚事由とはなり得ません。)。 -
(2)認知症などは法定離婚事由にあたるのか
では、認知症は、法定離婚事由である「回復の見込みのない強度の精神病」に該当するのでしょうか。結論からいえば、法定離婚事由に該当するかどうかは、ケース・バイ・ケースですので病名だけでは判断することはできません。
まず、回復の見込みがない強度の精神病に該当する代表的な病気としては、以下のものが挙げられます。- 統合失調症
- 躁うつ病
- 偏執病
- 早発性痴呆
- 認知症
認知症は、形式的には強度の精神病に該当する病気になりますが、裁判所は、病名だけで離婚の可否を判断していません。法定離婚事由である「回復の見込みのない強度の精神病」に該当するかどうかは、診断された病名に加えて、以下のような事情も考慮して判断することになります。
- 精神病の病状
- 精神病の程度
- 介護の経過
- 離婚後の生活の見通し
これらの事情を踏まえて、婚姻関係が破綻しており、離婚後に病気の配偶者が過酷な状況に置かれないといえる場合であれば、裁判離婚が認められる可能性があります。
3、難病を理由に離婚を進める際のポイント
難病を理由に離婚を進める場合には、以下のポイントを押さえておきましょう。
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(1)献身的に介護していた証拠が必要
結婚した夫婦には、相互に扶助・協力して生活する義務があります。相手が難病になった場合には看病をしなければならず、認知症になった場合には介護も必要になります。
このような献身的な看病・介護を続けていたものの、肉体的・精神的にこれ以上継続するのが難しいといえる状態になって、はじめて離婚が認めらえる可能性が出てきます。
当初から、看病や介護を放り出しているような場合には、裁判で離婚が認められる可能性は低いです。そのため、献身的に介護していたことがわかる証拠を集めておくようにしましょう。 -
(2)離婚後に配偶者が生活できるような支援を手配する
回復の見込みのない強度の精神病を理由として離婚が認められると、精神病にかかった相手は、これまで看病や介護を担っていた配偶者を失い、自分だけで生活をしていかなければなりません。
しかし、それは非常に困難だといえますので、離婚後の配偶者の生活基盤が整っていなければ、裁判所は容易には離婚を認めてくれないでしょう。
そのため、難病の配偶者と離婚するためには、離婚後も配偶者が安定して生活を送ることができるよう、生活基盤をしっかりと整えておくことが大切です。たとえば、施設に入所できるよう手配する、相手の両親と話し合い実家で生活できるよう調整するなどの対応が考えられます。 -
(3)配偶者に対して財産分与の割合を大きくする
離婚時の財産分与では、夫婦の共有財産を2分の1の割合で分けるのが一般的です。
しかし、難病の配偶者と離婚をする場合、病気の治療費や介護費用などの出費がかさむことが予想できますので、離婚後に難病の配偶者が経済的に過酷な状況に置かれるおそれがあります。
このような状況になると裁判所も離婚を認めることに消極的になってしまいます。そのため、配偶者への財産分与の割合を2分の1よりも大きくするなどの対応をすることで、離婚が認められやすくなるといえるでしょう。
4、離婚する前に知っておくべきこと
難病を理由に離婚する前に、以下のことを知っておくべきでしょう。
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(1)離婚後の生活費・生活拠点
配偶者と離婚をして、自宅を出ていくことになる場合には、離婚後にどこで生活をするのかを考えておかなければなりません。アパートなどを借りて生活する場合には、早めに部屋探しをしておくことで、離婚後の住まいを気にせず、安心して話し合いを進めることができるでしょう。
また、離婚すると配偶者からの援助がなくなりますので、これまで専業主婦やパート勤務だった方は、フルタイムでの仕事を探すことも早めに検討しましょう。離婚後の収支状況をシミュレーションするなどして、どの程度の収入が必要になるかをしっかりと把握しておくと安心です。 -
(2)子どもがいる場合の親権・養育費
夫婦に子どもがいる場合には、子どもの親権者を決めなければなりません。相手の難病を理由に離婚する場合、相手が子どもを監護・養育するのは困難だといえますので、基本的にはご自身が親権を獲得する方向で話し合いを進めていくことになります。
仮に裁判になったとしても、相手に監護・養育能力が認められなければ、裁判所が難病の相手を親権者として指定する可能性は低いでしょう。
また、子どもの親権を獲得した場合には、非監護親である相手に対して養育費を請求することができます。しかし、難病で働くことができない相手に対して、養育費を請求するのは難しいケースも多いといえます。そのため、難病の相手への養育費の請求は、相手の希望や収入・財産状況なども踏まえて判断していくようにしましょう。
5、まとめ
配偶者が離婚に合意してくれれば、難病が離婚原因であっても離婚することができます。しかし、離婚の合意が得られない場合には、難病という離婚原因だけでは離婚することは難しく、それまでの経緯や状況などを総合的に考慮して、離婚の可否が判断されます。
相手の病気の程度が軽い場合、離婚後の生活基盤が整っていない場合などのケースでは、離婚が認められない可能性もありますので注意が必要です。
難病を理由に離婚する場合には、通常の離婚とは異なりさまざまな配慮が必要になります。難病で離婚したいが進め方に悩んでいるという方は、まずはベリーベスト法律事務所 盛岡オフィスまでご相談ください。離婚問題の実績がある弁護士が、お気持ちに寄り添いながら、丁寧にお話を伺います。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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