慰謝料を払わないと差し押さえされる? 防ぐ方法を弁護士が解説
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2022年度の岩手県の発表によると県内だけで1492組の夫婦が離婚したと報告されています
離婚の理由が不倫(不貞行為)などである場合、慰謝料の取り決めを行うことが多いでしょう。しかし、離婚後に慰謝料を払えなくなったり、滞納せざるをえない状況になったりすることも珍しくありません。
慰謝料を払わないと最終的に財産を差し押さえられる可能性があります。差し押さえの対象は、不動産だけでなく、預金口座や給与も含まれます。そこで、今回は、慰謝料を払わないとどうなるか、また差し押さえを防ぐ方法について、ベリーベスト法律事務所 盛岡オフィスの弁護士が解説します。
1、慰謝料を払わないと差し押さえされるの?
慰謝料の支払いをしないと、最終的に財産を差し押さえられる可能性があります。そこで、慰謝料の支払いを無視した場合に起こることと差し押さえの対象となるものについて確認しておきましょう。
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(1)慰謝料を無視すると起こること
慰謝料の支払いを無視すると、まずは相手から確認の電話やメールがくるでしょう。対応しない場合、内容証明郵便で請求がくる可能性が高くなります。
内容証明郵便は、送付した内容を日本郵便が証明するサービスで、法的な証拠として有効になるため注意が必要です。内容証明郵便による請求も無視してしまうと、裁判を起こされる可能性があります。
裁判になれば、裁判所から訴状が届き、裁判所から呼び出しがきます。裁判を欠席し続けると相手の主張がそのまま通ってしまい、相手の主張に基づいた判決が出ます。
この判決により、慰謝料の強制回収(執行)が可能になります。強制執行されることになれば、不動産や動産、預金口座、給与などが差し押さえられるおそれがあります。この差し押さえは、判決が確定した日以後、いつ来るかわかりません。どこに財産があり、いつなら邪魔されることなく差し押さえができるか、タイミングを見計らってやってきます。
つまり、突然差し押さえをする執行官たちが来て、差し押さえられてしまうのです。 -
(2)差し押さえの対象になるもの
差し押さえの対象には、下記のものがあります。
- 土地や建物など不動産
- 車や金属宝石類など価値のある財産
- 預金口座
- 給与
・ 土地や建物など不動産
土地や建物などの不動産は、競売にかけられ、その売上金から慰謝料相当額を差し引かれます。
・ 車や金属宝石類など価値のある財産
車や高級アクセサリーなど価値のある物も差し押さえの対象になります。価値のある財産も不動産同様、競売でお金に換えられて慰謝料相当額を取られてしまいます。
・ 預金口座
預金口座が差し押さえられると、口座内のすべてのお金が差し押さえられてしまいます。差し押さえされてしまうと、口座が凍結し、引き出すことができなくなります。
・ 給与
不動産や動産だけではなく、給与も差し押さえの対象になります。ただし、給与のすべてを差し押さえてしまうと生活ができなくなってしまうため、差し押さえできる上限が法律で決まっています。手取りが33万円以下の場合 手取りの4分の1まで 手取りが33万円以上の場合 ① 手取りから33万円を引き、残った金額すべて
② 手取りの4分の1のいずれか高い金額
さらにこの給与の差し押さえは、一度限りのものではありません。毎月の給与から慰謝料相当額の支払いが終わるまで差し引かれます。加えて、ボーナスや退職金も差し押さえの対象となります。
給与の差し押さえは、会社から直接慰謝料の相手方に支払われるため、会社にも差し押さえされていることを知らされてしまいます。そのため、職場でも働きにくい状況になってしまうおそれがあります。 -
(3)差し押さえの対象にならないもの
法律上、今後の生活を保護するために差し押さえの対象にならないものがあります。
- 66万円までの現金
- 手取りの4分の3の給与
- 生活必需品
- 仏壇や位牌など
・ 66万円までの現金
差し押さえされても、66万円までの現金は取り上げられません。他方で、66万円以上あれば、超えた金額分は差し押さえの対象となってしまいます。
「現金で持っていると差し押さえの対象となるから口座に入れておこう」と考えるかもしれません。しかし、預金口座に入れてしまうと、口座が凍結し、全額が差し押さえの対象となるため、むしろ現金を預金口座に入れないようにしましょう。
・ 手取りの4分の3の給与
差し押さえの対象となるには、手取りの4分の1までです。そのため、手取りの4分の3については、差し押さえの対象になりません。
・ 生活必需品
冷蔵庫や寝具、衣服など生活に必要な物も今後の生活を保護する観点から差し押さえの対象にはなりません。しかし、大型で高価なテレビやオーディオ、カメラなど財産的な価値がある物は生活必需品として認められず、差し押さえの対象になる可能性があります。また、衣服だとしても、趣味で集めており、プレミアム価格がついている服やスニーカーなども財産的価値のある物として差し押さえの対象になるおそれがあります。
・ 仏壇や位牌など
仏壇や位牌などは、差し押さえの対象になりません。
2、慰謝料について公正証書を作成していた場合に払わないとどうなる?
慰謝料について公正証書を作成していた場合、すぐに差し押さえられる可能性があります。
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(1)公正証書とは
公正証書とは、離婚時の話し合いの結果などを、公証人という公務員が権限に基づいて作成し、内容を証明する公的な文書です。公正証書に強制執行を認める文言(強制執行認諾文言)が含まれている公正証書は、裁判の判決と同じような効力を持ちます。そのため、「慰謝料を支払う」という証拠になり、また、強制執行の根拠にもなります。
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(2)公正証書があればすぐに差し押さえになる
強制執行認諾文言付公正証書は、裁判の判決と同じような効力を持ちます。そのため、裁判を起こすことなく、差し押さえの手続きをすることができます。つまり、公正証書で取り決めを残したにもかかわらず、内容証明郵便の慰謝料請求を無視していると、次に来るのは差し押さえの可能性があるのです。
公正証書を作成したが、離婚後に慰謝料の支払いをしていないという方は、すぐに弁護士に相談しましょう。 -
(3)公正証書があっても3年で時効になる
慰謝料の請求は、基本的に3年で時効になります。3年間全く音沙汰がない場合には、支払う必要がなくなる可能性があるのです。
ただし、3年で時効になるのは、当事者だけで話し合いをした場合など、裁判外のときだけです。裁判の判決で慰謝料の支払いが決定した場合は、10年たたなければ時効になりません。
もっとも、時効までの期間の中で慰謝料請求があった場合や「支払うから待ってほしい」といってしまった場合には、3年の時効期間の計算がとまったり、新しく計算し直したりする必要があります。そのため、時効に疑問がある場合には、事前に弁護士に相談してから相手に時効であることを伝えるようにしましょう。
3、差し押さえを防ぐ方法
基本的に、慰謝料の支払いは、時効の期間が経過しない限り拒むことができません。しかし、差し押さえを防ぐ2つの方法があります。
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(1)猶予・減額・分割の交渉をする
慰謝料の支払いができない状況なら、まずは相手に支払いの猶予や減額、分割での支払いができないか交渉してみましょう。
交渉に応じてくれるか、また、どのような内容になるかは相手次第ですが、失業や転職で給料が少なくなってしまった場合には、正直に状況を説明し、相手と話し合いを行うことが大切です。 -
(2)自己破産する
自己破産とは、裁判所の権限で借金や慰謝料などの債務の支払義務をなくす手続きです。自己破産が認められれば、慰謝料の支払義務もなくなる可能性があります。
もっとも、自己破産する場合には、不動産や車などの価値のある動産、預金口座が差し押さえられることになります。しかし、自己破産後の給与については、差し押さえの対象とならないため、継続的に手取りの4分の1が差し引かれるという事態を防ぐことができます。
なお、離婚の慰謝料のうち、不倫を原因としたものであれば自己破産で支払義務がなくなりますが、DVの慰謝料の場合には、自己破産で支払義務が免除されません。そのため、何に対する慰謝料であるのかによって、差し押さえを防ぐための対処法が異なります。
4、慰謝料が支払えなくなった場合は弁護士に相談を
慰謝料が支払えない、差し押さえの可能性があって困っているなどの場合には、弁護士に相談してみましょう。
基本的に、慰謝料の取り決めには支払いの義務があります。しかし、失業や転職で支払うことができない場合もあるでしょう。そのような場合には、弁護士を介して、分割払いや猶予ができないか交渉が可能です。
また、慰謝料をどのように払うべきか、法に基づいた適切なアドバイスを受けることができます。早期に弁護士に相談することで、財産や給与の差し押さえを回避できる可能性があります。
お問い合わせください。
5、まとめ
慰謝料について、公正証書を作成していた場合や裁判の判決がある場合には、いつ差し押さえがきてもおかしくありません。そのため、慰謝料の支払わないまま、相手からの連絡を放置している方は、すぐに弁護士に相談することがおすすめです。
ベリーベスト法律事務所 盛岡オフィスでは、慰謝料問題や借金問題の解決実績がある弁護士があなたの事情を詳しくお伺いし、状況に合わせた最適なアドバイスをいたします。慰謝料等、支払いができないとお悩みの場合、まずはお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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