相続欠格となる事由とは? 相続廃除との違いや代襲相続

2023年07月03日
  • 遺産を残す方
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相続欠格となる事由とは? 相続廃除との違いや代襲相続

親子間や兄弟姉妹間の不仲や諍いが高じて、「家族の縁を切る」とか「相続から外す」と言い渡されるトラブルを時折耳にします。

血のつながった家族が法律上の親族関係を切ることはできませんが、民法では相続欠格(民法891条)と推定相続人の廃除(民法892条、893条)という制度により、「相続から外す」制度を設けています。

廃除は家庭裁判所の審判によって判断されますが、令和3年に岩手県内の家庭裁判所で扱われた事件は1件でした。相続欠格も廃除も事例としてはそれほど多くありませんが、その効果はかなり厳しいものです。

今回のコラムでは、相続できなくなる可能性がある制度のひとつである相続欠格についてベリーベスト法律事務所 盛岡オフィスの弁護士が解説します。

出典:「令和3年 司法統計年報」第9表(最高裁判所)


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1、相続欠格事由5つ|特別な手続きは必要?

相続欠格とは、相続に関する法秩序を害するような非行があった場合に、相続人としての資格を喪失させる制度です。

この章では、どのような場合に相続欠格に該当するのか、相続欠格者になるとどうなるのかについて解説します。

なお、相続実務では亡くなって財産を残す人を「被相続人」、相続する立場にある人を「相続人」(被相続人が存命中は「推定相続人」)と呼びますが、本コラムでもこの用語を用います。

  1. (1)相続欠格事由1|被相続人などの生命を侵害する行為

    相続欠格に該当する事由は、「被相続人などの生命を侵害する行為」と「遺言に関する不当な干渉行為」に大別されます。
    まず前者の「被相続人などの生命を侵害する行為」について解説します。

    ① 被相続人や他の相続人に対する殺人(未遂)罪で刑に処せられた場合
    被相続人や民法で規定する相続順位が同順位以上の相続人を殺害し、刑事裁判で有罪となり刑に処せられた場合は相続欠格に該当します。
    要件を整理すると次のようになります。

    • 「殺害」とは、殺意をもって人の生命を断絶する行為で、殺人罪や強盗殺人罪に該当するもの
    • 殺害の対象は、被相続人または相続順位が同順位以上の相続人(相続順位は、第1順位が子、第2順位が両親などの直系尊属、第3順位が兄弟姉妹となり、配偶者は常に相続人となる)
    • 死亡に至らなかった場合(未遂罪)や殺害の目的で凶器を用意するなどの準備行為をした場合(予備罪)も含まれる
    • 刑事裁判で有罪となって刑を言い渡され、その判決が確定すること


    なお、過失による交通事故で車に同乗していた被相続人を死亡させたような場合や、暴行の結果死亡させたものの殺意は認められないような場合は、相続欠格には該当しません

    ② 被相続人が殺害されたことを知っていて告訴、告発をしなかった場合
    告訴、告発とは、捜査機関へ犯罪事実を申告して犯人の処罰を求めることです。
    実際には他殺の疑いがある事案で警察が捜査を行わないことは考えにくいので、警察が事件性はないと判断したものの、実は殺人であることを知っていて告訴、告発をしなかったようなケースで問題となるくらいでしょう。

    なお、善悪の判断がつかない人や殺害犯が配偶者や直系血族(親子や祖父母と孫の関係にある人)である場合に告訴を強制することはできないため、相続欠格にはなりません

  2. (2)相続欠格事由2|遺言に関する不当な干渉行為

    遺言により誰に何を相続させたり遺贈したりするのかは遺言者の自由な意思で決めるべきものであり、これを妨害する行為も相続欠格事由とされています。

    遺言に関する不当な干渉行為は、次の3類型が規定されています。

    • ① 詐欺や強迫によって、遺言の作成や撤回、取り消し、変更しようとするのを妨害する行為
    • ② 詐欺や強迫によって、遺言の作成や撤回、取り消し、変更をさせる行為
    • ③ 遺言書を偽造、変造、破棄、隠匿する行為


    遺言に関する不当な干渉行為により相続欠格とするためには、上記のような行為をした動機、目的についても考慮する必要があります。

    最高裁判例では、③に該当する行為があった事例において「相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは」相続欠格に該当しないと判示しました。

    この事例は、遺言書に形式的な不備があることに気づいた相続人が不備を補正したというもので、その目的が遺言者の意思を実現するためであったにすぎないときは、相続欠格にはあたらないと判断しています。

    この要件は①と②にも妥当すると考えられますが、詐欺や強迫を手段としている時点で相続に関して不当な利益を目的としていることが推認されるともいえるでしょう。

  3. (3)相続欠格になるとどうなる?

    相続欠格に該当すると、当然に相続人としての資格を失い、さらに遺言により遺贈を受ける「受遺能力」も失います

    被相続人が死亡して相続が開始した後で欠格事由があることが判明場合は、相続開始の時に遡って相続権を失うことになります。

2、相続廃除との違い|廃除の方法も含めて解説

相続欠格と並んで「相続から外す」もう一つの制度である推定相続人の廃除(相続廃除)について解説します。

  1. (1)相続廃除とは?

    相続欠格が相続法秩序を害するような非行が原因であるのに対し、相続廃除は虐待や侮辱、著しい非行など親族関係を破壊する行為が原因で、被相続人の意思により相続権を剥奪する制度です。

    相続させたくない相続人がいる場合、遺言でそのように指定すればいいのではないかと思われるかもしれませんが、被相続人と相続人が親子または配偶者の関係である場合は、遺留分という権利が保障されています。
    遺留分とは、遺産から最低限の相続が認められる相続人の権利で、遺言によっても遺留分権の行使を制限することはできません。

    例えば、相続人が配偶者と子の場合、遺産について「4分の1」ずつ遺留分が認められ、配偶者に全財産を相続させる遺言をしても、子は「4分の1」に相当する金額を配偶者に請求できるのです。

    相続廃除は遺留分に相当する遺産すら相続させたくない相続人がいる場合に、被相続人の意思により遺留分を剥奪するための制度といえます。

  2. (2)廃除が認められる事由

    民法では廃除事由を次のように規定しています。

    • 被相続人に対する虐待
    • 被相続人に対する重大な侮辱
    • その他の著しい非行


    遺留分は遺族となる相続人の生活を保障するための制度でもあるので、廃除により遺留分を剥奪するのは、親子の縁や夫婦関係を切るにも等しいことといえます。
    それだけに、廃除が認められるハードルはかなり高いのが実情です。

    廃除が認められる「虐待」や「重大な侮辱」とは、犯罪に該当するような悪質なケースか、長期間反復継続していたようなケースではじめて認められるものです。
    また「著しい非行」とは、必ずしも家庭内のものである必要はありませんが、親子関係や夫婦関係にも重大な悪影響を及ぼすことが要件になると考えられています。

  3. (3)廃除の方法

    廃除は被相続人が家庭裁判所に請求して行うことができるほか、遺言でも行うことができます。

    いずれの場合でも家庭裁判所が廃除事由の有無を審理しますが、恣意的な廃除により遺族の生活が困窮するのでは、遺留分の制度がないがしろになってしまうため、家庭裁判所でも慎重な審理が行われます

    家庭裁判所で廃除が相当と判断されれば廃除の効果が生じ、役所へ届け出ることにより被相続人の戸籍に廃除された事実が記載されます。

    なお、廃除は被相続人の意思によるものなので、いつでも家庭裁判所に取消しを請求することが可能です。

  4. (4)相続欠格と相続廃除の相違点

    相続欠格と相続廃除の違いをまとめると次の表のようになります。

    相続欠格 推定相続人の廃除
    制度の趣旨 相続法秩序を害する行為に対する民事上の制裁 被相続人の意思による遺留分の剥奪
    効果の発生 欠格事由に該当すると当然に欠格者となる 家庭裁判所の判断による
    遺贈(遺言による贈与)の可否 受遺能力も失うため不可(生前贈与は可能) 可能
    取り消しの可否 被相続人の意思によるものではないため不可 可能(家庭裁判所の審判が必要)
    戸籍への記載 なし 身分欄に廃除された旨が記載される

3、相続欠格や相続廃除をされた相続人の子どもへの代襲相続

相続欠格や推定相続人の廃除は、代襲相続の原因となります。

代襲相続とは、死亡や相続欠格、廃除により本来相続人となるべき人が相続権を失った場合に、その直系卑属(子や孫)が代わって相続分を取得する制度です。

代襲相続が発生する要件は

  • 本来の相続人が子または兄弟姉妹で、相続権を失ったこと
  • 代襲相続人が相続開始の時に存命であったこと(出生前の胎児も含む)

です。

なお、相続人が自らの意思で相続権を放棄する相続放棄の場合には、もともと相続人ではなかったことになるので、代襲相続は発生しません。

また、本来の相続人が子である場合は、代襲の範囲に制限はなく孫やひ孫が代襲相続人となることもありますが、兄弟姉妹の場合は代襲の範囲は一代限り(甥、姪まで)とされています。

4、相続欠格における注意点

相続欠格に該当する相続人がいる場合に、相続手続きで注意が必要な点を解説します。

  1. (1)相続登記などにおける注意点

    相続手続きの中には、遺産分割協議や不動産の相続登記、預貯金の解約など、相続人全員で行わなければならない手続きがあります。

    相続欠格者は相続手続きに関与することはできませんが、相続欠格に該当する行為をしたとしても、それだけで役所などが相続欠格と判断するわけではなく、戸籍に記載されるわけでもありません。

    そのため、手続きでは、相続欠格者がいることを書面上明らかにして、「相続適格者」全員の行為相続人全員で行う必要があるであることを証明する必要があります

    相続欠格者が相続欠格を認めて争わない場合は、欠格者自身が相続欠格により相続権がないこと記載した書面を作成し、実印を押捺して印鑑証明書を添付することで相続欠格の証明とするのが一般的です。

    相続欠格に該当するのか争いがある場合は、全相続人(欠格者を含む)を当事者とする民事訴訟により、相続権の存否を確定させる必要があります。

  2. (2)相続欠格者に財産を残す遺言がある場合

    相続欠格は相続法秩序を維持するための制度であり、これに反して遺言で財産を相続させたり遺贈したりすることはできない可能性があります。

    相続欠格者に対して財産を相続させる、あるいは遺贈するという内容の遺言があったとしてもその部分は無効となり、相続適格者が改めて遺産分割をすることになるでしょう。

    なお、どうしても欠格者に財産を残したい場合は、生前贈与や生命保険契約により手当てする方法が選択肢となります

5、まとめ

相続欠格は、相続法秩序を害したことに対する民事的制裁といえるもので、相続権や受遺能力を失うという極めて厳しいものです。

また欠格事由となる行為は、要件となる殺人罪のほかに、有印私文書偽造罪や変造罪(刑法159条)、これらの行使罪(刑法161条1項)に該当する可能性もあります。
相続欠格はそれほど事例が多いわけではありませんが、仮にそのような行為をしてしまった場合は、法律上厳しい立場に立たされる可能性があります。

ただし、相続欠格に該当するのか否かについて争いがある場合は最終的に民事裁判で確定することになるので、もし相続欠格とされることに納得がいかない場合は、早期に有利な証拠を集めるなどして訴訟に備えるのが得策でしょう

ベリーベスト法律事務所 盛岡オフィスでは、相続に関するさまざまなトラブルについてお客さまをサポートいたします。

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